SNSなどで炎上することで、ニセ医療と呼ばれるものがあります。
医師がニセ医療で炎上するような案件もありますが、多くの場合、柔道整復師・鍼灸師・あマ指師・理学療法士・整体師が炎上することが多いと思われます。
なぜ、柔道整復師・鍼灸師・あマ指師・理学療法士・整体師はニセ医療をしてしまうのか?
解説します。
タチが悪いのはどれ?
ニセ医療をしてしまう理由として、3つ挙げられます。
- 金もうけ
- 勉強不足
- 本当に信じこんでいて、患者さんを救いたいと思っている
この中で一番タチが悪いのはどれでしょうか?
答えは3です。
本当に信じこんでいて、患者さんを救いたいと思っている人が、一番タチが悪いのです。
ハンス・フォン・ゼークトの軍人の4つの分類と言うのはご存知でしょうか?
有能な怠け者は司令官にせよ。
有能な働き者は参謀に向いている。
無能な怠け者も連絡将校か下級兵士くらいは務まる。
無能な働き者は銃殺するしかない。
というものです。
もう少し解説すると
「有能な怠け者」は有能であるが故に事の是非を決することができる。
そして、怠け者であるが故に他人を用いて任せることもできるので上に立つ者として最適である。「有能な働き者」は事を判断することはできるが、働き者であるが故に他に任せきることができない。
よって、上に立つよりも参謀として輔佐する立場が適当である。「無能な怠け者」は自分で判断できないし、自ら動こうともしない。
よって、命ぜられたことをそのまま遂行する立場に適任である。「無能な働き者」は自分で適切な判断もできないのに、勝手に動く。
これは、余計な事をして迷走する者である。
となっています。
金儲けのためにニセ医学をやっている人は、楽をして金儲けをしたいという点では、有能な怠け者かもしれません。
こういう人は有能なため、世間の目が厳しくなり、儲からない、儲けの割りにリスクが大きいと判断すれば、すぐにやめてしまうでしょう。
ある意味、それほどタチは悪くないと思います。
勉強不足でニセ医学をやっている人は、無能な働き者と言えるのかもしれません。
自分で判断できないし、自ら動こうとしないため、勉強不足というわけなのですが・・・
勉強不足な方は、自ら動こうとしないため、ニセ医学を積極的に広めるようなこともしなければ、あまり深入りすることもないでしょう。
影響力が強い人にやめろと言われれば、簡単にやめてしまうでしょう。
ニセ医学を本当に信じこんでいて、患者さんを救いたいと思っている方は、無能な働き者と言えます。
自分で適切な判断もできないのに、ニセ医学を信じ込み、良かれと信じて周囲をニセ医学をどんどん広め始めます。
また、無能な働き者の特徴として
- 自分は有能だと思い込んでいる
- ミスを繰り返す
- 効率が悪い
- プライドが高い
- 責任転嫁する
- 非を認めない
- 適切に判断出来ないうえに勝手に行動する
- 他人に迷惑をかけたことに気づけない
- 常に他人より高い位置にいるつもり
- 責任感を負わず、自分の非を認めない
というものがあります。
SNSで妙な正義感を振りかざし、デマを拡散しまくったり、他者を攻撃しまくったりという行動に出るわけです。
ニセ医学とは少し違うかもしれませんが、医者気取りの柔道整復師・鍼灸師・あマ指師・理学療法士・整体師もいるわけですが、ある意味無能な働き者なのかもしれません。
ニセ医学を信じる人は内集団バイアスにも陥りやすい
ニセ医学を信じる、内集団バイアスにも陥りやすいのです。
内集団バイアスとは、人は「自分の集団(内集団)は優れ、他の集団(外集団)は劣っている」と錯覚する心理を持っています。
身内を贔屓して、他人を排斥する心理のことですね。
自分が所属感を抱いている集団を「内集団」と言います。
そうではない集団を「外集団」と言います。
内集団は所属集団とは少し違い、自分がその集団の構成員であるという自覚を持っている集団です。
「内集団は優れ、外集団は劣っている」と錯覚する「内集団バイアス」という心理傾向ということですね。
わかりやすい例で言うと
- やたらと地元意識が強い人
- 学歴などにこだわる人
- 会社名などにこだわる人
- 所属団体・肩書きにこだわる人
なんかも、内集団バイアスにも陥っているとも言えます。
内集団に対しての好意的な行動と、外集団に対しての差別的な行動に繋がります。
身内を贔屓してよそ者を排斥する精神構造ということですね。
- 女性は〇〇だ。
- 男性は〇〇だ。
というのも、内集団バイアスに陥っているとも言えます。
内集団バイアスによる錯覚の怖いところは、内集団の評価は「内集団の優れた人間や実績」を基準に行うことです。
外集団の評価は「外集団の劣った人間や実績を基準」に行います。
これでは公平ではありませんよね。
公平に分析するのなら長所・短所・平均・中央など同じ部分で比較すべき所を、都合がいい数字だけを抜き出し、内集団の長所と外集団の短所で比較してしまうのです。
そんな手法を使えば、内集団の方が優秀に見えますよね・・・
SNSで対立している集団を見てみると分かりやすいです。
お互いに相手集団の中で際立ってバカな意見を吊るし上げて「アイツらはこんなにバカでどうしようもない」と主張しています。
同業の人同士でいがみ合っている構図ですね。
- 〇〇は不正している!
- 〇〇治療法はインチキ!
とかですね。
中立の立場で見れば、どっちもどっちなのに、集団の構成員は「アイツらはバカでどうしようもない。自分たちは賢い」と錯覚するわけですね。
これは内集団の格を高めることで、間接的に自分の格を高め自尊心を得ようとする心理が働いているためと言われています。
「優れた集団に属している自分は優れている。劣った集団に属している〇〇は劣っている」
「ということは、自分は〇〇より優れている」と自尊心を満たすことができます。
ニセ医学にのめり込んでしまうのも、この辺りにあります。
ニセ医学にのめり込むのも、そもそもの目的が自分の自尊心を満たすことなので、あまり深くは考えないし、見たくないものを見ようとはしません。
だからこそ、ますます内集団バイアスに陥ってしまうわけですね。
内集団バイアスは、集団を結束し繁栄させる点において有利に働きます。
内集団バイアスのおかげで構成員は集団から離れにくく、身内贔屓な意見は外部から魅力的に見えて新たな構成員の流入を促します。
さらに集団が大きくなり繁栄すれば、それは構成員の利益にも繋がります。
現代においても国・企業・部活・地域のコミュニティ・宗教・ネットワークビジネスまで、内集団バイアスを利用して集団の結束を高めようとしています。
ですが、やはり内集団バイアスは集団を超えて物事を公平に捉えるという点で不利に働きます。
行き過ぎた身内贔屓は選民思想に繋がり、他集団との摩擦が増え、また集団を超えた最適である「全体最適」の妨げになります。
昔のナチス、オウム真理教なんかもない集団バイアスが行きすぎた結果とも言えます。
内集団バイアスの矛先は時に内集団に向くこともあります。
集団の優れた構成員を持ち上げ、劣った構成員を排斥して集団の優位性を保とうとするのです。
これを「黒い羊効果」と言います。
「白い羊の集団に黒い羊が一匹いると、馴染めない黒い羊は他の羊から迫害を受けてしまう」という現象のことです。
黒い羊一匹をいじめることによって、他の羊は一体感が生まれ、より一層黒い羊をいじめてしまうのです。
容姿端麗な社員が入ってきたら、いじめられた。
仕事が抜群にできる社員が入ってきたらいじめられた。
これも「黒い羊効果」とも言えます。
黒い羊効果が行き過ぎると内集団の結束にも支障をきたし、互いを監視し合って隙あらば追い落とそうとするなど、組織として活動することが難しい状態に陥ります。
こうなると集団から構成員が抜ける、外集団から異常さが浮き彫りになるなどして、徐々に集団が縮小・先鋭化して社会から浮いた存在になっていきます。
行き過ぎた内集団バイアスは逆効果しかないでしょう。
ニセ医学にハマる人は自尊心が低い?
精神科医クリストフ・アンドレとフランソワ・ルロールの行った実験で「自尊心の低い人ほどに内集団バイアスにかかりやすい」という結果が得られています。
手軽に自尊心を得られる手段は魅力的です。
ニセ医学にハマることで、「優秀な集団の一員としての自分」というアイデンティティを確立して自尊心を満たそうとするロジックです。
「集団の一員としての自分」としてのアイデンティティしかないと、その集団の崩壊が自分のアイデンティティの崩壊に繋がってしまいます。
そのため集団を乱すものに対して、過剰に反応してしまいがちです。
SNSなどで、やたらと他人に攻撃的だったり、自分の意見・考えを押し付ける傾向がある方は、内集団バイアスに陥っているのかもしれません。
先ほども書きましたが、行き過ぎた行動は、逆に集団の崩壊に繋がりかねません。
内集団バイアスは上手く使えば決して悪いものではありませんので、内集団バイアスと上手く付き合うことを心がけましょう。
(参考)
Cambridge Dictionary|black sheep
大石千歳, 吉田富二雄 (1998), 「黒い羊効果(black sheep effect)一社会的アイデンティティヘの脅威となる内集団成員への差別現象ー」, 筑波大学心理学研究 20, pp. 163-171.
大石千歳, 吉田富二雄 (2001), 「内外集団の比較の文脈が黒い羊効果に及ぼす影響ー社会的アイデンティティ理論の観点からー」, 心理学研究 71(6), pp. 445-453.
Karasawa, Minoru (1991), "Toward an assessment of social identity: The structure of group identification and its effects on in-group evaluations," British Journal of Social Psychology, Vol. 30, No. 4, pp. 293-307.
Marques, José, Vincent Yzerbyt, and Jacques-Philippe Leyens (1988), "The 'Black Sheep Effect': Extremity of Judgments towards Ingroup Members as a Function of Group Identification," European Journal of Social Psychology, Vol. 18, pp. 1-16.
川崎 浩司
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